Lesson3



ナマエの授業は日本語だけではなく作法や日本人の心も教えた。もちろん心に響いた生徒は興味深く聞くがそうでもない生徒もいる。

エレンもそうでもない生徒の部類に入ると思っていたがそういう訳でも無さそうで、授業後はナマエと教室を掃除したり廊下のゴミを見つければゴミ箱に捨てるなど日々の意識が変わってきていた。

エレンについて回っていたアルミンもミカサも手伝うと言い、最近では賑やかな掃除時間となっている。

「3人とも、ありがとう。ほらほら、お昼時間終わっちゃうよ」
「はーい!」
『ありがとうざいました!』

アルミンがそう日本語で返すと、ナマエも日本語で『ありがとう』と手を振った。






次の授業までナマエのコマは無く、少し長い昼休憩だ。 静まり返った校舎の庭のベンチで、作ってきたおにぎりを食べていると

「あ、清掃員さん」
「・・・アンタか」

ランチ後の清掃をしに来ていたリヴァイと出くわしナマエはこんにちは、と頭を下げた。

「お疲れ様です。お掃除ありがとうございます」
「・・・別に礼を言われる覚えはねぇよ。こっちは仕事でやってる」
「そうは言っても、お掃除してくれる方が居なきゃこの学校はゴミ屋敷になっちゃいます。清掃員さんのお陰で学校がこんなに綺麗なんです」

その言葉にリヴァイは目を見開いた。
そんな事、この仕事についてから1度も言われたことが無いからだ。

どう反応していいか分からず、リヴァイは下がったマスクをクイッと上げると

「・・・そりゃどうも」
「あ、少し休憩しませんか?まだ暑いんですし、倒れちゃいます」

女性からの誘いを断るな、そう叔父に聞かされていたリヴァイは頷くと隣に座った。
人一人分空いたスペース・・・ナマエはランチボックスをベンチに置くと

「良かったら食べますか?作りすぎちゃって」

ランチボックスの中身はおにぎりだった。
ナマエはあっと何かに気づくと

「・・・清掃員さんって、潔癖です?」
「何でだ?」
「だって、綺麗好きですし」
「まあ・・・潔癖の部類には入るな」

するとナマエは少し残念そうに眉を下げると

「素手では作ってませんが、だとしてもいい気分じゃないですよね!すみません」

そう言ってランチボックスを持ち上げようとするとリヴァイはラップに巻かれたおにぎりを掴んだ。えっ、と驚いてリヴァイを見るとマスクを下にずらしそのままラップを剥がしておにぎりにかぶりついた。

改めて見るとマスクを外されたリヴァイの顔は整っており、思わずナマエは見とれてしまった。


程よい塩気と鮭がマッチしている・・・無心で食べている姿をナマエも緊張しながら見守っていると

「・・・悪くねぇ」

そう呟けば、ナマエは表情を明るくさせると

「お茶もどうぞ。」
「ああ、頂こう。」

お互い無言で食事をとっているとリヴァイはおにぎりを見ながら素朴な疑問を投げかけた。

「何故おにぎりは海苔が巻かれているんだ?」
「えっと確か・・・持ちやすいようにと、ご飯の消化を助けるためだそうです」
「そうなのか」

ただ米を巻いた食べ物ではないらしい。
ナマエは小さなタッパーを開くとそこには卵焼きやウインナーも盛り付けられていた。

「良かったらおかずもあります」
「・・・食べる」

リヴァイは箸を受け取ると卵焼きをもぐもぐと食べ始め、ナマエそんな姿を見て笑うとおにぎりにかぶりついた。



***



ナマエのスクール生活が始まって3ヶ月が経った。日本語が分からなかった生徒たちも段々理解し始め、授業中は日本語を使う事も増えてきたくらいだ。

そして授業後はエレン、アルミン、ミカサと教室を掃除したり空いたコマの時間は中庭でリヴァイと昼食をとっている。

リヴァイは顔には出さないがナマエとの時間を楽しみにしており、ナマエもまたリヴァイと食事をするのが楽しみだった。






「チッ・・・」

リヴァイは舌打ちをした。
いつものように中庭に行きナマエを探したが、その隣にはハンジが座っていたからだ。
リヴァイの存在に気づいたハンジは笑顔で「おーい」と手を振ってくれば、ナマエもこちらを見て笑いかけてきたので2人に近づいた。

「リヴァイじゃん!どうしたの?」
「・・・別に、仕事だ」

今日は分が悪い、と背中を向けると

「嘘だね!ナマエに会いに来たんでしょ!」

図星を突かれたリヴァイは固まり、ナマエは顔を赤くさせる。 普段から空気を読まない奴なのに、なぜこんな所では空気を読むのだ・・・眉のシワを一層深くさせイラつきを見せるリヴァイに、ハンジはニヤニヤとすると

「ごめんごめんお邪魔して悪かったね〜」
「あの、清掃員さん!これ・・・」

リヴァイの為に作ってきてくれたランチボックス。それを見ただけでモヤモヤが晴れてきてお礼を言って受け取る。

「いつも悪いな」
「いえ、お時間ある時に食べてください」

そうにっこり笑いかけられると、リヴァイの心臓は大きく跳ねてしまう。初めての感覚にむず痒くなっているとハンジは「え?」とナマエを見ると

「ナマエ、さっきまでリヴァイって呼んでたじゃん」
「あ?」
「なっ・・・ちょ、ハンジ先生っ!?!」

ナマエはとっさにハンジの口を塞ぐが時すでに遅しでリヴァイも固まる。

今までナマエはリヴァイの事を「清掃員さん」と呼び、リヴァイも「先生」と呼び合う仲だった。自分の知らない所で名前で呼ばれ・・・リヴァイも珍しく固まってしまった。

「あの、その・・・えっとですね、うう・・・」
「あははは!!かわいいー!」

恥ずかしさにナマエはハンジの胸に顔を埋めるがそれすらも嫉妬してしまう。
しかし、名前で呼ばれ嫌な気分にはならずむしろ嬉しい気分だ。

「・・・ごちそうさま、ナマエ先生」

そう呼べばナマエは驚いて顔を上げ、リヴァイも分かるか分からないかの微妙なラインで微笑むとその場を去った。



可愛らしいバンダナで包まれたランチボックス・・・一緒に食べられないのは残念だが、また明日会う口実が出来た。と少し浮き足立ちながら清掃員室へと向かった。




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